広報さがみはら NO.1232 平成24年(2012年)1月1日号 4・5面 ---------- 新春対談 東日本大震災に学ぶ 災害に強いまちづくりに向けて 防災元年 ----------  昨年3月11日の東日本大震災から、私たちは多くのことを学びました。“想定外≠ニいう事態を二度と招かないために、各地で新たな防災への取り組みが始まっています。2012年はいわば「防災元年」。市民の生命や財産を守り、安全で安心して暮らせるまちづくりへの備えを進めるために、加山俊夫市長と黒岩祐治県知事が語り合いました。 (司会 tvkアナウンサー 三浦綾子さん) ---------- 東日本大震災から学んだこと  ―謹んで新年のごあいさつを申し上げます。昨年は、何といっても東日本大震災があまりにも大きな出来事でした。  加山 あらためて亡くなられた方のご冥福をお祈りし、今なお厳しい状況にある被災地の皆さまに、心からお見舞い申し上げます。  3月11日当日は、議会の打ち合わせ中でしたが、すぐに中断して地震災害警戒本部を設置し、災害対応にあたりました。  銀河連邦事業で交流のある岩手県大船渡市には、震災の2日後から市民・企業などの皆さんにご協力いただき、物資の支援や義援金、人的支援を行ってきました。私自身、震災から1か月後に大船渡市に行きましたが、あまりの被害の大きさに言葉も出ませんでした。  復興には相当な時間がかかることが予想され、長期にわたる支援を続けたいと思っています。  黒岩 東日本大震災は、日本がかつて経験したことのない、国難ともいうべき状況を生みました。このことが私が県知事選挙に立候補することを最終的に決断する大きな要因ともなりました。まさに、「行政とは何か」という問いを突き付けられた大きな出来事だったと思います。  行政機能がまひした石巻市の避難所で、ゼロからそこでの生活や役割分担、皆で支え合う仕組みを作りあげる…。県でもさまざまな緊急支援活動を行いましたが、参加した職員にとって、そこで学んだことは大きかったようです。  加山 そうですね。もし自分が被災地の職員だったら何ができるのか、と。指示を待つのではなく、自分で考えて動くということを学んできたと思います。  黒岩 昨年は「絆」や「助け合い」という言葉が注目されました。東日本大震災によって、私たちは皆で力を合わせて支え合う大切さを学んだといえるでしょうね。 見えてきた新たな課題    ―さまざまな課題も見えてきました。  加山 今回の震災では、計画停電など誰も経験したことのない事態が起こりました。医療用の電力の確保に奔走したことが思い出されます。  黒岩 私が今取り組んでいるのは、太陽光発電をはじめとした、再生可能エネルギーの促進です。  原子力発電などに依存しすぎないことが、結果的に災害に強いまちづくりにもつながっていくと思うのです。  加山 再生可能エネルギーの推進は、相模原市の環境基本計画の一環でもあります。県との連携も進めたいですね。  また、福島第一原子力発電所の事故は、「放射能汚染」という問題を生みました。相模原市でも独自に放射線量などの測定を続けていますが、今後も子どもの生活圏域となる施設などを重点に、さまざまな取り組みを進めたいと思っています。  黒岩 復興支援の在り方も、もっと論議される必要がありますね。県内には、今も被災地から避難されている方が大勢います。そんな方々が孤立しないように県職員とボランティアが協力し『かながわ避難者見守り隊』を行っています。市民の絆、寄り添い支え合うということの大切さ。ハード(物資や設備)だけでなくハート(心)にも、末長い支援が必要だと思っています。  ―津波の脅威が再認識されたほか、帰宅困難者への喫緊の対応なども求められました。  黒岩 神奈川県のこれまでの防災対策では、今回のような大津波はまさに“想定外”でした。  現在は、津波対策推進会議において、津波対策の大幅な見直しを進めているところです。これまでに公表している津波浸水予測図を見直し、市町が作成する「津波ハザードマップ」などに活用できるよう取り組んでいます。  加山 帰宅困難者対策は首都圏にとって深刻な問題です。  震災当日は市内主要駅で発生した帰宅困難者約2500人に対し、避難所13か所を開設して受け入れを行いました。もし、より大きな地震が起こったら直後の混乱をどう乗り切るか。「職員初動体制の強化」に力を入れていく必要があると感じました。  災害対策本部の体制の見直し、人員の確保や初動対応訓練の充実を図りたいと思っています。 基幹的防災拠点を相模原市へ    ―今回の体験を教訓に、防災体制はどのように見直されるのでしょうか。  黒岩 東日本大震災が残した重要な教訓は、広域での連携が非常に大切だということです。  被害を受けた地域、受けていない地域がどう助け合い、乗り切るか…。さまざまな状況を想定し、首都圏の九都県市首脳会議(※1)では、あらかじめどこが被害を受けたらどこを助けにいくか担当を決めておくなど、新しい連携体制をつくろうとしています。 ※1 九都県市:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市  加山 国の防災拠点は臨海部に集中しています。例えば、首都直下地震が起きた場合、その機能を十分に発揮できない恐れがあります。  内陸にある相模原市は、道路、鉄道のアクセス性に優れ、「首都圏内陸部の基幹的防災拠点」として、支援物資の中継や首都圏への物資供給のバックアップ機能を果たすことができると思っています。九都県市首脳会議の場でこれを提案し、整備に向けて働きかけているところです。  黒岩 相模原市は県の北部に位置し、内陸にあって、今回のような津波の影響を受けることはありません。防災の基幹センターの機能を相模原市に置く意義は大きいと思います。大いに期待しています。  加山 在日米陸軍との災害時の相互支援に関する覚書や、神奈川県央地域の8市町村(※2)との協定などに基づき防災対策などに取り組んでいきます。  さらに、指定都市市長会で提案している国土ブロック単位での支援など、多様な連携を積極的に進めていきたいと思っています。 ※2 県央地域の8市町村:相模原市、厚木市、大和市、海老名市、座間市、綾瀬市、愛川町、清川村 求められる新たな防災体制  ―今後に向けてどのようなことに取り組まれていますか。  黒岩 今回の震災への対応で明らかになった課題を市町村と共有し、今後に生かすために「地震災害対策検討会議」を設置しました。情報収集や被災地支援などの課題を検討しています。  中でも、「情報」は非常に重要だと思います。起きたことをいち早く一人ひとりに届ける仕組みづくりが大切です。IT技術などを駆使し、各地で何が起こっているかをすばやく把握できるシステムなど、新しく有効な技術があれば、取り入れていきたいですね。  加山 今、市役所内にプロジェクトチームをつくり、課題をまとめていますが、やはり、一番大事なことはどんな場合でも「情報伝達が途切れない」こと。伝達手段の多重化、災害時初動体制の充実などを進めていきます。  また、「相模原市地域防災計画」の見直しも進めています。相模原市は、中山間地域、相模川沿い、市街地と、同じ市内でも地域によって全く事情が異なります。地域性に合わせた細やかな想定をして取り組みたいと考えています。  2012年は「災害に強いまちづくり」再スタートの年だと思います。市民の皆さんの安全・安心を確保する行政の役割をしっかり果たしたいと思っています。  また、市民の皆さんには「自分の身は自分で守る」という自助、「共に支え合い、助け合う」という共助の考えで、日頃から災害に対する備えと心構えをもっていただき、地域の防災訓練などへも参加されるなど、ご理解とご協力をいただきたいと思います。 ---------- 相模原市の主な取り組み  市では、東日本大震災の教訓を生かし、各地域の実情に応じた、よりきめ細かな対応が図れるよう「相模原市地域防災計画」の見直しなど、さまざまな取り組みを進めています。 ●他自治体との連携:九都県市合同防災訓練への参加をはじめ、昨年9月1日には県央地域の8市町村で、災害時の相互支援、それぞれの友好都市などへの応援を盛り込んだ、「県央地域市町村災害時相互応援等に関する協定」を結びました。  (※1)九都県市:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市  (※2)県央地域の8市町村:相模原市、厚木市、大和市、海老名市、座間市、綾瀬市、愛川町、清川村 ●在日米軍との協力:昨年10月26日、在日米陸軍と結んだ災害時の相互支援に関する覚書は、大規模災害などが市域で発生した際に物資の輸送などの相互支援を行うもので、市町村と在日米陸軍が覚書を結ぶのは全国初。また、12月6日には米海軍厚木航空施設とも同覚書を結びました。 ●放射能対策:福島第一原子力発電所の事故以来、市内29区画と小・中学校などの9施設で放射線量の測定(写真)を続けているほか、子どもが集まる施設などでは、必要に応じ清掃を行うなどの対応をとっています。さらに、2月から自治会、3月から市民などを対象に放射線測定器の貸し出しを始めます。また、小・中学校や保育所の給食用食材の「事前検査」とあわせ、市立小学校や保育所などで、実際に提供した「給食1食分」を1週間ごとに検査しています。 ---------- 広がる防災意識と実践的取り組み 東日本大震災以後、市民の防災への意識は大きく高まりました。行政と協力して、自分たちの暮らしやまちは自分たちで守る、という取り組みが各所で始まっています。 今だからこそ地域の絆を! JR相模湖駅で初の“官民合同”訓練  昨年11月17日、津久井消防署(大戸 進署長)がJR東日本、津久井警察署、桂北公民館との初の合同救助訓練を行いました。JR相模湖駅構内で将棋倒しが起き多数の負傷者が出たという想定で、情報収集→救出・救護→応急処置→トリアージ(搬送の優先順位をつけること)などを行いました。訓練には約70人が参加しました。  JR相模湖駅の磯崎正彦駅長(写真)は、「震災当日は中央線が止まり、300人もの乗客が停止した車内で翌朝まで過ごされました。幸い今回は駅員だけで対応できましたが、その時、桂北公民館から『公民館をお貸ししますよ』と言っていただくなど、日頃からの地域の方との絆が大切だということを、今回の震災で実感しました。このような合同での訓練は初めてですが、こういう積み重ねが、いざという時に役立つと思います。日頃、お互いの顔が見える関係をつくり、災害に備えていきたいですね」と語りました。 防災対策の空白を埋める! 緑区長竹で結成、「長竹災害時支援隊」  ―結成の目的は。  会社勤めの人が増え、消防団員のなり手が不足しているのはどこも共通する悩みでしょう。昼間人がいない時間帯に火事や地震が起きたら地域をどう守るか。この課題に「災害時支援隊」という第3の組織を作って対応しようというのが長竹地区の試みです。  ―どんな人たちがメンバーですか。  私は消防団OBですが、日中家にいるOBや、看護師やホームヘルパーなどの資格を持っている主婦が入隊し、定期的に訓練や研修を行いながら、交流を深めています。現在団員は161人、隊員の平均年齢は57歳で、女性の比率が約4割と高いのが特徴です。  ―今後の活動の方向性は。  東日本大震災では停電が起きテレビ・パソコンなどが使えず、行政に問い合わせても詳しい被害状況がわからない、という情報の分断を経験しました。けが人が出た場合、消防署などと連絡が取れるまでの間が、命をつなぐ貴重な時間となることもあります。その“命の時間”を隣近所で救護にあたったり、情報が遅れてしまいがちなお年寄りのケアにあたるというのが私たちの狙いです。消防団では手が届かないこと、女性にしかできないことが災害時にはたくさんあります。まず長竹地区でよい組織を作り、他の地域にもこうした活動を広めていけたらいいですね。 ---------- 「スーパーレスキューはやぶさ」:相模原市の政令指定都市移行に伴い、特別高度救助隊「スーパーレスキューはやぶさ」を相模原消防署本署に配置。愛称は小惑星探査機「はやぶさ」にちなみ、隊員が危険な任務を全うし、1人でも多くの人を助け、困難を乗り越えて必ず戻ること、そして、鳥の「ハヤブサ」の素早いイメージが隊員に求められる「迅速性」と合致していることから名付けられました。隊員は火災や救助のほか、地震、土砂災害などの大規模災害や、生物剤、化学剤などによる特殊災害にも迅速かつ的確な救助活動ができるよう、日々厳しい訓練を行っています。