平成30年度「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。
平成31年2月17日(日曜日)、相模原市とさがみはら生物多様性ネットワークの共催で「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。4回目となる今年は、「生物多様性を守る~森と林 現場からのメッセージ~」をテーマとし、専門家による基調講演、市内で活動する団体による事例発表というプログラムで行いました。
基調講演や事例発表でお話しいただいた内容を紹介します。
第1部 基調講演 「シカ問題を解決する~丹沢の生物多様性を守るために~」
日本獣医生命科学大学 獣医学部 教授 羽山 伸一さん
今回の講演では、丹沢で起こっている異変と、それに対するシカ問題への対策がどのように行われているか、そして野生動物問題の拡大をどう防ぐかについてお話します。
まず丹沢についてですが、神奈川県は上水道の水源などライフラインの多くを丹沢に依存しています。昔の丹沢はブナが生い茂り、神奈川の自然を象徴する場所でした。しかし、ブナの木が立ち枯れ、ササ草原になってしまうといった異変が起きました。神奈川県が500人以上の専門家とボランティアで科学的な調査を行った結果、異変の原因は、シカによる低食圧だけではなく、大気汚染や人工林の管理不足などによる複合的な影響ではないかということがわかってきました。
荒廃した人工林では、大抵の野生動物は生きられません。間伐など適切な管理を行うことで、生物が暮らせる環境になります。神奈川県民のみなさんが払っている水源環境保全税は、こうした森林整備に活用されています。また、ブナ林の衰退については、シカの植生影響が大きな要因の一つとなっています。そもそも、シカは本来、平野に生息するいきものです。しかし、市街地の拡大や狩猟の解禁により、もともといた住みかから追いやられ、山に追い込まれていきました。そして山の中腹にある人工林は荒廃し、暮らせるのは高標高のブナ林となりました。ここはほとんどの地域が鳥獣保護区とされたことで数を増やしていきました。こうした人間の活動による影響が重なったことで、丹沢でシカ問題が発生しているといえます。
シカ問題を解決するため、神奈川県は個体数の調整のための捕獲を進めていますが、捕獲の担い手の減少や高齢化は大きな課題です。他にも、行政が森林整備に補助金を出したり、防護柵を設置するなど、丹沢の各地で様々な対策を実施しています。丹沢の生物多様性を守るために重要なことは、人的資源や予算を一か所に集中的に投入し、成果を出すことです。現在、一部でそうした取組が実を結び、植生の回復や、希少種の再生が確認されています。このように、点の取組から始めていき、将来的に面として取り組んでいくことで、丹沢の生態系を回復させることができると考えています。
最近ではサルやシカが住宅地に出没するといったニュースを耳にする機会が多くなりましたが、将来的にはこういった機会はさらに増えると考えられます。直接接触する危険性はもちろん、野生動物によってダニを介したSFTSウイルスなどの病原菌が人間社会に持ち込まれる恐れなど、様々な危険もあります。
シカを含む野生動物の問題は、私たちの安全に直結する問題であり、個人や一組織で解決できるような規模の問題ではありません。自治体、警察、専門家など様々なステークホルダーが連携して取り組む野生動物対策の仕組み作りが喫緊の課題となっています。
シカによる農作物や林業への被害額は莫大なものですが、シカを絶滅させることは決して正しいことではありません。シカの存在自体が悪いのではなく、様々な理由があって「シカ問題」が起きていることを理解することが大切です。
野生動物の問題というのは、人間と野生動物が存在する限りなくなることはありません。重要なことは、問題をこれ以上大きくしないことなのです。
第2部 活動事例発表
生物多様性 第一の危機・第二の危機に抗して
NPO法人境川斜面緑地を守る会 太田 淨子さん
NPO法人境川の斜面緑地を守る会は、1995年にマンション問題を契機に発足しました。会員は125名で、橋本から大和市北部の流域5カ所の緑地で活動しています。
活動を始めて10年間は主に緑地を残す活動でした。その後は、残した緑地の手入れを中心に活動しています。今日は、生物多様性の危機のうち、第一の危機と、第二の危機に立ち向かった活動についてお話しします。
第一の危機の一つ目は、バブル期のマンション建設ラッシュで境川の斜面緑地が分断と消失の危機にさらされたことです。私たちは動植物調査と緑地保全基金への募金活動を続けました。そして活動開始から4年、市が緑地の買取りを決断し、現在の古淵鵜野森公園が残されました。
二つ目は、県の河川改修工事で境川の河畔林が伐採の危機にさらされたことです。私たちは国の専門家を呼んで県と市民で現地学習会を行いました。最終的に、改変は必要最低限にして川の蛇行、河畔林、土の岸を残す改修に変更されました。蛇行にかこまれた河畔林には、現在、ヒメニラやアマナなどの絶滅危惧種が生育し、土の岸ではカワセミが営巣しています。
三つ目は、相模原市と大和市の市境で二つの区画整理事業が浮上したことです。国の専門家と都と市と地権者、市民で話し合い、境川の旧河道と自然度の高い河畔林を残すことができました。今後は旧河道に水を引き、遊水地を兼ねたビオトープとして湿性植物、トンボのヤゴや稚魚の揺りかごとなることを願っています。
こうして残された緑地では、第二の危機に立ち向かう活動を続けています。何年も放置された林の手入れは、不法投棄ゴミの処理、常緑樹の除伐から始めました。現在も手入れを続け、明るい落葉樹林を維持するとともに、動植物のモニタリング調査を行うことで自分たちの手入れが間違っていないかを検証しています。
常緑高木の巨木化による日当たりの悪化、ボランティアの高齢化、自治体の緊縮財政など課題は尽きませんが、生物多様性のために、貴重な緑地はその場所の未来のためのジーンバンクとして、税金を投入してでも保全することが必要だと考えています。
市民参加の森づくりから20年を迎えた取り組み
NPO法人森づくりフォーラム フォレスト21「さがみの森」連絡協議会 宮本 至さん
NPO法人森づくりフォーラム フォレスト21「さがみの森」連絡協議会は1997年に活動を開始しました。活動のコンセプトは、「多様性」と「継続性」をテーマに、大人から子どもまで、誰もが参加できる森づくりです。青山の仙洞寺山国有林の管理者である森林管理署とは、「ふれあいの森協定」を結び、森づくり体験活動の場として様々なプログラムを実施しています。
定例的な活動としては月2回、除間伐、枝打ち、道づくり、下草刈りなどを行っています。イベントとしては、枝払い、間伐、植林などの体験プログラム、バームクーヘンやピザづくり、鳥の巣箱づくりなどのワークショップを行っています。
さがみの森には、道具が一式揃っていて、仮設トイレや手作りの小屋があり、森林での作業・活動に適した環境が整っています。また、木工や施業に詳しい人、植林に詳しい人、森林インストラクターとして活動している人など様々な熟練した技術を持つ指導者も揃っています。そして、活動場所には、多くの種類の生物が生息しています。
活動していく上での課題として、ヤマビルの問題があります。ヤマビルが出る夏季は参加者が減少し、活動できるフィールドも限定されます。対策として、ズボンと靴下の間をガムテープでふさいだり、忌避剤を使用したりしています。また、生息地や遭遇率に関する情報の蓄積も進めています。
また、参加者集めも課題の一つです。私たちは、メールやちらしの字体・デザインを工夫し、活動内容を説明する文章で季節感を表現したり、見どころをPRしたりしています。活動中の写真にも工夫を凝らします。SNSやメールマガジン、ウェブページなどの発信窓口を定期的に更新すれば、信頼感、安心感が高まります。参加者集めに対する口コミの効果は大きいです。レギュラーに定着してもらい、活動の関係人口を増やすことがポイントになります。社会的意義のある活動に楽しみをプラスアルファすることができれば参加する人が増えると考えています。
今後は、活動日を増やして手入れするエリアを広げることや、市の機関と協力して生物相調査を行うこと、これまでの成果レポートと仙洞寺山のPR冊子をつくることが目標です。
質疑応答
個体数調整のために野生生物の捕獲を進めなければならないという現状がある一方で、シカやイノシシの肉をジビエとして流通させるには、衛生面での施設整備や流通ルートの確保、需要の拡大といった課題が多くあり、利用が進んでいかないことが話題となりました。
また、市内の希少生物は増えているのか、減っているのかという質問に対して、いきものの暮らしの中で人間に見えているのはほんの一部であり、すべてを捉えることは難しいが、捉えようと努力を続けることが重要であるという意見がありました。
その他、野生動物が人里に下りてくるのを防ぐためにできることはないのかといったことや、繁茂する孟宗竹への対応、高木化した樹木の伐採についてなどが話題になりました。
講評 羽山 伸一さん
今回のシンポジウムで印象的だった言葉が2つあります。1つは「未来のためのジーンバンクを各地域で残す」。もう1つは「生物情報の可視化」、生物がどこにどれくらいいるかを可視化するということです。
神奈川県は市民活動の活発なことに関して、全国トップクラスだと思います。特に里地里山に関わるような活動が多いです。多くの場合、そうした活動は点で行われていて、貴重な活動をしているし、貴重な情報を持っています。それが生物多様性にどうつながっていくかというと、前に出した2つの言葉が重要です。生物は1カ所では生きていけず、一定の個体数がないと維持できません。ピンポイントで維持できるものもいれば、広範囲に分布していないと生き残れない種もあります。それぞれの生物のスケールに合わせて我々が現在の状況についての情報を共有することが保全の第一歩です。そのためには、生物の生息情報を可視化できる仕組みを市民がつくりあげることが重要です。国や県の取組には、なかなか継続性や広がりはありません。こういうことこそ、ローカルからやっていけるムーブメントだと思います。また、日本の絶滅危惧種の半分は里地里山に生息しているので、里地里山の情報がないと保全もできません。そういう意味で市民活動はとても重要です。
過去のいきものコラム
- インタビュー「生物多様性は心を潤し、文化を育む。」 玉川大学教授 田淵俊人さん
- 平成27年度「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。
- 平成28年度「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。
- 平成29年度「さがみはら生物多様性シンポジウム」を開催しました。
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